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企業が森林に関わることが環境問題を解決する!?~森林の課題と企業が今できること~
地球温暖化や森林火災、土砂災害の発生等により森林の環境問題への関心は高まっています。しかし森林のことを知る機会は案外少ない現状があります。森林の環境問題に関する原因や、私たちの生活に及ぼす影響と、これからできることについて解説します。
環境問題とは
環境問題とは、人間の活動により自然環境の破壊や変化が引き起こされることで、生態系や私たちの健康、経済活動に悪影響を及ぼすこととされています。近年の温暖化による洪水、土砂災害、山火事、住宅地での獣害問題などの発生により、環境問題の解決がますます重要視されています。
日本で起こっている森林の環境問題と原因
その中でも特に、二酸化炭素の吸収や、土砂災害の防止、生態系の維持などの観点で、「森林」を通した環境問題の課題解決が注目されています。しかし、普段あまり接点を持つ機会がない森林でどのような課題が起きているのか、解決策があるのかはあまり知る場面がありません。
1. 木が切られていないことによる地球温暖化防止機能の低下
森林の環境問題というと、「森林伐採」という言葉が頭に浮かぶ人も少なくないと思います。しかし、実は日本において森林の量は増えているという現状があります。
森林の量は「森林蓄積」という「森林の資源の量」で把握することができます。日本の森林の面積は長年増減していませんが、森林蓄積は年々増加しています。面積が変わらず、蓄積量だけが増えているということは、木材として活用できるほど大きく成長した木が年々増加していて、伐採されていないということを意味します。
林業従事者の減少や木材ニーズの低下、輸入材の利用等が進んだ結果、成長し活用できるはずの木材が伐採されないという問題が起きています。
また、木を適切な時期に伐採しないことは、地球温暖化にも影響を与えます。植えてすぐの若い木はCO2の吸収量が排出量に比べて多く、二酸化炭素を吸収する役割を担ってくれます。しかし、樹齢が長くなるとCO2の吸収量に比べ、排出量が多くなり、二酸化炭素を吸収する役割を担ってくれなくなります。このことは地球温暖化防止機能を低下させることに繋がります。
植林したあとも、適切に伐採を行い、循環を促すことが重要です。
2. 木が植えられていないことによる土砂災害リスクの増加
一方、木を伐採したのちに植林されず手入れがされていない森林は、土砂災害のリスクが高くなります。林業従事者の減少や金銭的コストも大きいことから植林をはじめとした育林(植林や間伐など森を育てる作業)を行えない山林所有者の方も増えています。
また、植林せずに放置した森林は、通常自然と木が生えてくるはずですが、近年シカやウサギ等の獣害被害もあり、育苗しづらいという地域もあるそうです。
そのように木が生えていない森林に大雨が降ると、地面がむき出しになった場所に雨滴があたり浸食したり、地表を雨水が流れ川の水の急激な増水に繋がります。そのため、伐ったあとは植えるということが重要です。
3. 広葉樹が少ないことによる生物多様性低下の危機
戦後に行われた拡大造林という、広葉樹中心の森林をスギ、ヒノキなどの針葉樹に植えかえる林業政策により、日本の森林面積(2,505万ヘクタール)のうち、約4割の1,020万ヘクタールが人工林です。そのうち約7割がスギ・ヒノキです。
戦後の木材需要の高騰や自然災害や乱伐などの影響で木材の供給が追いつかず、また、戦後職がなくなった方の仕事を作るという観点などから拡大造林は行われました。スギ・ヒノキは成長も早く、建材としての活用もしやすいことから、これらの樹種を植林しましたが、成長を待つ間に、輸入材利用が進み、国産材が活用されにくい状況にあります。
針葉樹が増えたことで、ドングリなどの実を落とす樹種が少なくなり、シカ・イノシシ・ウサギなどの森林に住む動物のエサが不足しています。動物たちはエサをもとめ森林から街へおり獣害被害に繋がっています。
また、花を咲かせる木も少なくなったことで、二ホンミツバチが少なくなったという声も聞きます。
森林の環境問題が私たちの生活にもたらす影響
1. 野菜や魚などの食料不足
私たちは日々、森林の恩恵を受け生きています。普段、森林と遠く離れた地域に住む人はあまり実感がないかもしれませんが、実は食卓にならぶ魚も野菜も、育つためには森林からの栄養が必要です。例えば「森に降った雨は、葉っぱや腐葉土の中に蓄えられ、その過程で栄養分が溶け込み、ゆっくりと川や海へと流れ込みます。海ではその栄養は植物プランクトン、海藻などに利用され、食物連鎖により動物プランクトン、魚類などに繋がります(環境省里海ネットより引用)」田んぼや畑に流れる川や土壌も森林からの栄養を利用しているため、同じように野菜やくだものの育成にも欠かせません。
そのため森林を適切に保全することは私たちの日々の食を守ることにも繋がります。
2. 木材の資源の不足
木材は私たちの生活に意外と身近な存在です。家の柱などに活用されているのはもちろんですが、机やタンスなどの家具、筆記用具、調理器具など様々な場面でも活用されています。また、最近ではキャンプなどの流行により薪として使用されることもあります。
これらの木材は林業従事者の方が森林から重機やチェンソーを使用して切り出し、市場(いちば)に出品され、製材所やプレカットなどの行程を経て商品化され、私たちの手元に届きます。
森林の自然環境における問題だけでなく、森林に関わる仕事をする人がいなくなれば、木材資源を手にすることも難しくなります。実際に日本では特定の県産の木材で家を建てたいと思っても、労働者不足などにより調達できないという事例もあります。自然環境としての森林だけでなく産業としての森林をどう守るのかも重要な視点です。
森林の環境問題を解決する方法
1. 森林資源の利用
森林の環境問題を解決するためには、森林を適切に手入れするための従事者の確保や育林に関わるコストが十分に補える状況をつくることが重要です。そのため森林資源を利用し、需要を高め、適切な循環をまわしましょう。身の回りにある筆記用具、家具、建物などを木製に変えるだけでも大きな変化に繋がるかもしれません。
2. 森林に関心をもち声をあげる
森林は私たちの生活にとても身近であると同時に、あまりにもあたり前に存在するため普段意識する機会は少ないと思います。日本の森林が今どういう課題を抱えているのか、何に困っているのかを知ることも、森林の環境問題を解決するうえで大事な一歩です。多くの森林組合や林業関係の会社が森林体験ツアーなどを実施しており、最近では旅行会社がグリーンツーリズムや林業体験ができるツアーなども提供しています。ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
3. 植林体験や寄付などに協力する
NPOや森林保全団体、最近では民間の林業関係の会社なども森林をもっと知ってもらうために植林ツアーを開催しています。また、森林保全団体などによる植林ボランティアもあります。しかし、最近ではボランティア職員の高齢化や資金不足などにより活動が進まない現状もあります。そのような団体に寄付をすることも森林の環境問題を解決する一助になります。
企業ができる森林保全活動
個人個人が森林の環境問題を解決するために取り組むことはとても重要ですが、企業が森林に関わる事業を立ち上げたり、保全活動に参加することはよりインパクトを生むことができます。
1. 企業の森への参加
都道府県が各地の森林組合などとともに実施しているのが「企業の森」という取組です。「企業の森とは、企業や労働組合などの皆様にCSR(企業の社会的責任)や社会・環境貢献活動、または地域との交流活動の一環として、県内の森林保全に様々なかたちで取り組んでいただく事業を総称するものです(和歌山県HP企業の森引用)」
企業の森はすでに多くの企業が参加しており、各地域の森林で「○○企業の森」と書いた看板もよく見かけます。手軽に、安心して参加できる方法です。
2. 森林事業への参入
近年は脱炭素社会の実現や、SDGsなど企業の中でも森林に関わる必要性を感じる機会が多くなったと思います。事業性を持ちながら森林保全を行うことを目指す企業も増えています。森林産業に参入する会社はまだ少ないことから、競合もまだあまり多くはありません。そのため今が森林事業に参入する良いタイミングかもしれません。
まとめ
森林の環境問題は私たちの生活にも大きな影響を与えます。一方で森林に直接かかわる機会や、森林のことを知る機会は意識しないとなかなかないという現状もあります。歴史的な森林の課題、林業従事者の確保に関する課題、コスト的な課題、様々な課題が複雑に絡み合い、森林の環境問題が存在しています。解決に向け、個々人が木材製品を使用するなどの意識が必要ですが、企業などの影響力のある組織が森林産業に参入することも課題解決に向けて重要なことです。
環境省里海ネット
https://www.env.go.jp/water/heisa/satoumi/03.html
林野庁 スギ・ヒノキに関するデータ
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/data.html
和歌山県企業の森
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070700/kig_mori/kig_mori.html
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